ドクターズプライム Official Blog

「救急車たらい回しをゼロにする」ドクターズプライムの公式ブログです

ドクターズプライムOfficial Blog

領域特化のバーティカルサービスにおけるデザイン思想で大事なこととは?-メルカリ出身のデザイナー対談

「デザイン」。 一見するとクリエイティブでセンスが必要なものだと捉えられがちな言葉であり領域です。しかし実際はユーザーの課題を解決し価値創造する一連のプロセスがデザインであり、製作物だけにとどまりません。まだまだその本質的な部分については理解されていないことが多くあります。

そこで今回、プロフェッショナルなデザイナーたちは何を考えているのか、実例を交えて対談をしてもらうことにしました。1人は弊社デザイナーの田中、ゲストは株式会社ブックリスタの新規事業室のcremaさんです。

二人は前職のメルカリでデザイナーの同僚として働いていて、今回の対談が実現しました。転職を経てフリマアプリ「メルカリ」とは違う領域のデザイン業務では何を大事にし、どんなことに気をつけているのでしょうか?

領域特化のバーティカルサービスについて

まずはそれぞれの会社の事業と、ご自身の業務内容について教えてください

田中: ドクターズプライムの一人目の正社員デザイナーとして入社し、現在も一人体制で業務を行なっています。具体的にはプロダクトデザインやブランディング、果ては物理的なノベルティづくりなど、デジタルやプロダクトにとどまらずありとあらゆることを担当しています。大変ではありますが、全てを管轄できる分やりがいもありますし、他職種の社員も気さくなので楽しんで働けています。

直近注力しているのは新規事業の「Dr.’s Prime Academia」です。毎月100件、医療領域の勉強会が視聴できる医師向けサービスで、そのプロダクト全般のデザインをしています。具体的にはどのようにすればユーザー、正確には利用者である医師がスムーズにサービスを利用できるかを考え導線づくりをするなどUXも含めた体験構築をしています。9月末にはiOSアプリもローンチしました。

crema: 私は株式会社ブックリスタの新規事業開発室でデザイナーとして勤務しています。担当は推し活アプリ「Oshibana(おしばな)」とショートマンガ支援サービス「YOMcoma(よむこま)」です。

業務は、全体の8割ほどのリソースを使って各サービスのUIをつくるのはもちろんのこと、その手前のUXなどをプロダクトチームと議論したり、マーケティング領域でAppStoreのアプリ紹介画像やバナーなどを作成したりと幅広に担当しています。残りの2割は社内のデザインチーム同士でナレッジシェアをするための準備や、そこでのキャッチアップを行っています。これは会社全体でスキルや生産性を高めていけたら、といった考え方から動いているプロジェクトです。

チームは大きく分けると2つで、1つはグラフィックデザインやHTMLなどでサービスページなどをつくるチーム、もう1つはプロダクトのUI/UXを考え、施策を実行するチームです。その中で基本的にはデザイナー1人で1つのプロダクトを担当している状況です。

ユーザーヒアリング重視のプロダクトづくり

お二人はもともと、メルカリでデザイナーとして勤務されていました。いま担当しているサービスとの違いやこだわりのポイントなど教えてください。

田中: メルカリはあらゆるユーザーがターゲットになっていましたが、現在担当しているのはあくまで医師をターゲットにしたプロダクトです。そのため医師属性における好みや思考などが顕著に現れやすく、そこを理解しておく必要があると感じています。加えて医療業界ではご高齢の医師が長く活躍されているので、例えばそうした方もサービスをご覧になると想定し、小さすぎる文字を使いすぎないなど、細かな点に気をつけています。

こうした考え方は全社で取り組んでいるユーザーヒアリングで得たインサイトからキャッチアップし、実装に活用しています。ユーザーヒアリングの情報はNotionやSlackにストックされ続けているので、社内のナレッジシェアとしても有用です。あとはSlackに医師が参加しているチャンネルがあるので、そこで直接機能追加や改善案、新施策などについて回答をもらうこともあります。協力的な医師が業務時間外などで返答をくれるのでとてもありがたい環境です。

crema: 推し活アプリ「Oshibana」は、10〜-20代の女性が主なユーザー層になっているプロダクトです。もともとは全体的なターゲットユーザーを「推し活をしている人」としていて、現在もペルソナというほど固くは設定していません。

そうは言っても、どんなサービスにおいてもターゲットが何が楽しくて何を求めているのかを理解するのはやはり重要だと考えています。そのため、「Oshibana」ではその1つの方法として、Slack上で「Oshibana」関連のTwitterの投稿が抽出されるチャンネルを作成し、ウォッチしています。そこで得られる投稿傾向から、ターゲットになる人の考え方、文化に触れるようにしています。

「YOMcoma」では、毎週30分×2本のユーザーヒアリングを必ず実施しており、他にもPdMやコンテンツディレクターが参加しています。対象となるのはショートマンガなどに関心の高いユーザーで、基本的にはTwitterからDMで協力依頼をかけるか、ヒアリング用のマッチングサービスを利用しています。

サービス自体は投稿者のマンガ投稿を支援できるように設計しようとしているので、ショートマンガを好んで読むユーザーがどのように反応するのか、どのようなものを求めているのか知る必要があります。そのためヒアリングではショートマンガの捉え方や投稿者さんをどのように応援したいかなどをユーザーヒアリングしたり、サービスのプロトタイプを検証したりしている状況です。今後はどのようにコンテンツを充実させ、ユーザー数、投稿数などの数字を向上させるか具体的な施策で試行錯誤していく段階に入ります。

お二人は「ペルソナ」をどう捉えていますか?

田中: もちろんペルソナの重要性は理解しています。ただ、ターゲットユーザーの領域が広くない場合は、ユーザーヒアリングをしている方がペルソナとニアリーイコールであると認識していて、もはや仮説を立てるまでもなく目の前にいるという考え方です。

あくまで自分の思いと知識の中で思い描く人なので、想定外のところにある思考や全く考えていない領域の話は抜けがちだと思っています。それはユーザーヒアリングを経て、「そんなこと考えるんですか?」と驚かされた経験も多かったからかもしれません。こう聞けば返事はこう返ってくるだろうなんてことはなくて、インサイトの深い部分で仮説通りにはいかないからこそ、ペルソナの設定だけでは本質的に意味がなく、ユーザーヒアリングにこそが意味があるのかなと考えています。

crema: 私たちのチームの考え方も、それと似ています。ユーザーリサーチを重ねターゲットとするユーザーが重きを置いている価値について理解は深めますが、それが「XXさんXX歳、職業XX」のようにペルソナを設定し、そのペルソナに向けてサービスをつくることにはならないようにしているのです。n=1が感じる価値に対してプロトタイプを検証していこうという考え方です。ペルソナを固定してしまうと、サービスの本来持つべき価値がブレそうな気がするんですよね。

田中: もちろん仮説ありきで動く方が失敗もリスクもないので、その価値も理解しています。だからこそあらゆるサービスでは仮説が立てられがちなのかなとも。ただそこで、直接ユーザーに聞くからこそできるスクラップアンドビルドのほうが、僕の考え方には合っていますね。

crema: インサイトはペルソナからは生まれないですよね。ユーザーヒアリング中に実際私も「え、そんなことを考えているんですか」と気づかされることは多々あります。先に仮説を立て、ユーザーの考え方との差分を探っていくようにしています。

-統計や平均値よりも、目の前のユーザーを大事にする考え方ですよね。とはいえn=1だと、その施策の対象範囲が思ったよりも狭い、なんてことも起こりうると思います。この辺りはどのように判断していますか?

crema: その場合れはそれぞれの施策の結果を事実としてとどめておきつつも、いま力を入れる部分ではないという判断をすることもあります。その上で、他の施策を進めてから、前の施策に立ち戻ることはありますね。

田中: 原因が“プロダクトではなくてサービス認知の問題だった”ということもあり得るわけなので、判断は難しいかもしれませんね。ですが、そうした全ての事象が繋がるのがスタートアップの規模感、フェーズの会社の特徴な気もしています。自分自身が自信を持ってサービスを世に送り出せているかというか、「これならお客さんを幸せにできるはずなのに!」といった想いを詰め込めているかどうかですよね。それがなければ“シリコンバレーがやっているから…”などと真似をしたりして凡庸なプロダクトに落ち着いてしまうというか、適当なプロダクトになってしまいそうな気がするので、とにかくいいものを届けるというマインドを大事にしていくことが重要なのかもしれません。

そうすればいずれ、n=1の後ろにいる100が1万になって届いていく可能性がありますし、それこそがユーザーの幸せを創出するプロダクトの使命かなと、一人のデザイナーとしてよりは社会人として思うところがあります。

crema: 確かにそう思います。手法の意味ではクリステンセン教授が提唱したジョブ理論も活用できそうです。この理論は100のリソースの中でどのようなサービスを雇用(利用)しているか、さらには自社サービスはその中の100%のどのくらいを占めるのか、割合が少なければ他の何かを雇用(利用)してそのジョブを解決しているはずという考え方です。サービスが似ているだけが競合ではなく、課題に対するアプローチ方法を多面的に見るというか。それを田中さんが話した想いの部分と両軸で回していけるとより良いものがつくれるのかもしれませんね。

バーティカル領域におけるユーザー体験設計

サービスづくりにおいて、デザイナーとして包括的なユーザー体験まで設計されますか?具体例があれば教えてください。

crema: どのサービスでも体験設計に関わるようにしています。例えばショートマンガ支援サービス「YOMcoma」では、投稿者に“いかに楽しく投稿を継続してもらえるか”を考え、サービス利用時の通知方法や内容を検討しています。最近ではどんなタイミングで通知が来ると楽しく継続して投稿してもらえるかを考えています。かなり単純化してわかりやすく言うと「X人があなたの作品を読みました!また描きませんか?」「今週はこのトピックの作品が人気でした」といったイメージです。より素敵な作品継続的に投稿していただけるよう働きかける体験設計をしています。

進め方としては、チームメンバーと仮説や方針を固め、それが合っているかどうかを見極めるためにユーザーヒアリングでモックアップをお見せしながら出てきた意見を分析するなどの作業を行います。筋がよさそうな仮説が見つかるまで、ヒアリング内容とモックアップをブラッシュアップするなどし、“考える”と“つくる”を往復しながら形にしていきます。

田中: プロダクト開発はフィードバックを得ながら修正をかけていくのが王道な気がしますよね。僕はデザイン思考を起点にできれば、ユーザーにとってよりよい場をみんなでつくり上げやすくなるので面白いなと感じています。

ドクターズプライムでは、ユーザーヒアリングなどで得たインサイトなどがナレッジとして貯まっているので、そこから体験設計をしています。というのも医療領域は独特で、Web検索では医師採用目的の記事が多かったり、書籍では医師向けの実務の内容がメインだったりして、サービスづくりに直結するような情報収集は難しい傾向にあるんです。そのため、ユーザーヒアリングを通してでないとターゲットユーザーについて理解できないと割り切ってドメイン知識を深めています。あとは従兄弟が医者の家系なので、小さい頃から正月に医師の苦労話を聞かされていたのが、今になって役立っている気がします(苦笑)。

バーティカル領域におけるデータ活用の肝

バーティカル領域だとユーザー数が必ずしも多くない分、データでの判断が難しいと感じることがあります。その辺りはどのように判断していますか?

crema: たとえばApp Storeの「プロダクトページの最適化」や「カスタムプロダクトページ」などでA/Bテストをしたいと思う局面も多々あるのですが、かなりまとまった数のデータがないと精度が高い結果を得るのに時間がかかってしまうため、現状ではなかなかワークしにくいと感じています。そのため、いまは、A/Bテストはあまり行っていません。

しかし、週1回新機能をがリリースしている「推し活アプリOshibana (オシバナ)」では、アプリの利用状況のデータを見て、我々の仮説や検討している価値とズレがないかという意味でのデータ活用はしています。SNSでユーザーの声は確認しますが、ユーザーが欲しがっているから、即その新しい機能をつくるわけではありません。仮説を立てて、定量のログデータを確認しながら進めています。

田中: n数が多くない分“仮説を立ててその検証をする”といった進め方が鍵になる気がしています。あとは時間軸をどのように捉えるかで判断が変わることも理解することが大事ですよね。

ただ、機能追加ではなく機能を改善していく場合には、ABテストが必ずしも有効でないという前提で進めるには判断が難しいと感じることもあります。そこで重要なのは仮説で、最後は究極決めの問題なのかもしれませんね。

目指すべきデザイン組織としてのあり方

両社はこれから、デザイン組織が大きくなっていく段階かと思います。いまのチームの特徴や今後の展開でどのようなお考えをお持ちですか?

crema: 新規事業開発室の話をすると、全員が中途採用で入社したプロフェッショナルなので、マイクロマネジメントがほとんどない組織体になっています。唯一の決まりは、ゴールや数字を共有し進めること。その道程については、基本的に各々に裁量権があります。もちろんマネジメント層はその道程のアウトプットや進捗をウォッチしてくれているのですが、大前提は「お任せする」というスタンス。自律型の組織であることが特徴だと思います。

また、会社横断のデザイナー組織としても、共通のデザインシステムやデザインレビューなどの規定もつくっていません。それぞれのチームが手掛けるプロダクトのビジネス面での責任者や事業フェーズに合わせて、各デザイナーが最適だと思う動きをしています。ただ、UXとUIを担当するデザイナー同士では必ず週1回情報共有の時間を設け、プロジェクトの進め方やデザイン上での悩み相談など、お互いに助け合える体制は最低限確保しています。

これらをベースに、事業フェーズが変わっていくに従って、柔軟にチームのあり方を変化させていければと考えています。

田中: ドクターズプライムは現状、デザイナーが僕一人です。ただすでにデザインシステムを作っているので、これから入社する人に合わせて作り替えていくこともできるし、拡張することもできる状況になっています。

他にも戦略面からデザインやデザイン思考を使ったアプローチや、プロダクトにおける体験・情報設計、他にもグラフィック面で活躍できそうな方がいると良いなーと思います。医師に特化したバーティカルなサービスですが、気にせずアプローチしてみてください。そして、ドクターズプライムが持つミッションやビジョンをご覧になってください。日本の医療が抱える現状に向き合う事業にデザイン面からエンパワーメントしていきましょう!

採用情報

株式会社ブックリスタ

www.booklista.co.jp

株式会社ドクターズプライム

careers.drsprime.com